九州産業大学景観研究センター 景観セミナー/レクチャーシリーズ 2021年前期 第2回
テーマ:いま、台湾の風景にふれる
クロツラヘラサギがつなぐ湿地の風景
高久 ゆう 氏
【セミナー内容】
本日ご講演していただいた高久ゆう氏は、福島県のご出身である。現在は、東京工業大学大学院の学生であると同時にTeam SPOON副代表を務めておられる。セミナーは、Team SPOONでの活動内容や、クロツラヘラサギが越冬する台南の湿地が抱える社会的課題等についてご講演いただいた。
台湾の南西に多くの湿地が広がっており、その中の一つの布袋(ブダイ)の湿地では養殖池が多くあり、冬に水を少し抜き水位を下げたときに、クロツラヘラサギや渡り鳥が残った魚を食べている。養殖池は、オランダ統治時代に導入されており、300年以上の歴史を持つとのことである。
現在、世界各地でグリーンコンフリクトが問題になっていることにも言及された。世界と同じく、台湾でのグリーンコンフリクトも始まったばかりとのことである。
台湾は原子力を段階的に廃止し、再生可能エネルギーからの電力供給量比率を20%とする方針を2016年に発表した。しかし、代替エネルギーである太陽光発電の計画地の多くは、少し埋め立てれば広大な平地が得られる湿地であり、クロツラヘラサギの生息地が失われることが危惧される。クロツラヘラサギの他にも多くの生態系が存在しており、代替エネルギーによる環境問題が深刻な状況であることが示された。
また、近年のグリーンコンフリクトは、従来の対大企業の大規模開発とは性質が違なり対個人地主であることから、交渉手段を模索中とのことであった。高久氏ご本人は福島原発事故当時に高校生だったこともあり、今、クリーンエネルギ―と自然の共存について考えておられるとのことであった。
副代表を務めているTeam SPOONは、東アジアを中心に展開しており会員は約450名である。メンバーの指輪とクロツラヘラサギの足輪のデザインをそろえることで繋がりを表現している。また、クロツラヘラサギに関する子どもワークショップを韓国や台湾で開催し、クロツラヘラサギをとおした国際交流も実現しているとのことであった。コロナ禍ではオンラインによるシンポジウムで多くのSPOON会員が参加した。国境を超えたつながりにより、将来に自然を残したいと考えているとのことであった。
記録:大庭知子(九産大)