2025 年 6 月 6 日(金)、九州産業大学 23 号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。今回は、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマに、福岡を拠点に空き家の再活用や地域再生に取り組む吉浦隆紀氏をお招きし、「自律的リノベーションとコミュニティの蘇生」を副題としてご講演いただきました。 吉浦氏は、福岡市郊外にて代々続く農家の 8 代目であり、建築や都市に関する知見を活かしながら、空き家を再生し住まいや地域の魅力を引き出す実践を展開されています。講演では、 NY 留学中に得た「まちに魅力があれば人は古くても住む」という気づきを原点に、帰国後に取り組んだ DIY 型賃貸マンションや学生とのリノベーションプロジェクト、そして自身が購入した空き家を活用した実践事例について紹介されました。 中でも印象的だったのは、 70 年前に建設された集合住宅を約 90 万円で購入し、「月 1 万円の家賃+材料費支給+技術指導付き」で入居者が自ら改修するスタイルを採用した事例です。 3 か月で満室となったこの物件の成功を皮切りに、宣伝を行わず口コミだけで満室となった別棟、そして半年で 1,000 人以上が訪れる空間となった事例など、空き家の新たな価値を実感させる話が多数紹介されました。 「人は便利になるほどコミュニティが失われるが、人と関わりたいという欲求はなくならない」「お金のやり取りがないと関係が曖昧になる。ボランティアでは続かない」など、運営上のリアルな課題と工夫についても率直に語られ、会場の参加者に強い印象を与えました。 今回のセミナーは、縮退社会において地域資源を活かし、人のつながりや暮らしの質をいかに再構築していくかを考える上で、示唆に富んだ機会となりました。 景観研究センター 大庭
雨をゆっくり流すまちづくり 笹川みちる氏(NPO法人雨水市民の会 理事) 11/ 8 (金)18:00-19:30 景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #2 本日は、笹川みちる氏(NPO法人雨水市民の会 理事)に「雨をゆっくり流すまちづくり」というテーマで、ご講演いただきました。 墨田区は、広い範囲で海抜ゼロメートル地帯のためかつては水害常襲地帯であり、現在もそのリスクは残されています。降雨時に下水が河川に流れ込むCSO(合流式下水道越流水)問題も抱えており、40年ほど前から、雨水を貯める・蓄える取り組みをすすめています。例えば区役所の1,000 ㎥ 、両国国技館の1,000 ㎥ 、スカイツリーの2,635㎥ をはじめ区内全域で801か所での総貯水量26,780 ㎥ を誇る雨水利用の先駆都市でもあります。 このような背景のなか、雨水市民の会では雨水貯留・活用に関して市民でできることを中心に取り組んでおり、雨水タンクの普及や、災害時のための路地尊の活用など、個人・コミュニティ規模の雨水貯留施設の普及・活用に尽力されてきたそうです。 そのほか、市民参加や参加型のワークショップを開催したり、市民と専門家の技術的な橋渡しにも一役買っています。現在は、米国コカ・コーラ財団からの助成もうけて、楽しく、魅力的かつ効果的に雨水貯留するプロジェクトに取り組まれています。 東京都では平成26年に、豪雨対策の目標降雨が75mm/hから85mm/hへと変更されましたが、これは増加分の10mm/hに流域での貯留や浸透対策で対応する必要があることを意味しています。まさに雨水市民の会で取り組んできた小規模雨水管理が着目される時代になってきたわけです。 最後に笹川さんの推進する未来の水ビジョンとして「水みんフラ」という提言をされました。私たちの暮らしを支える社会共通基盤システムを「みんなのインフラ」という意味で「みんフラ」と名付け、特に水をマネジメントする仕組み全体を「水みんフラ」と呼ぶそうです。この水インフラの概念はわかりやすいイラストにまとめられており、イラストを基に市民が自ら描く自らの未来への議論が弾んでいるようです。 文責:景観研究センター 伊豫岡