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英国の産業景観を探る 岡田昌彰氏

 

九州産業大学景観研究センター 景観セミナー/レクチャーシリーズ 2021年後期 第3回

テーマ:Perspectives from Russia, US and UK in the midst of a global pandemic

 

1224日(金)18001930

英国の産業景観を探る

岡田昌彰氏

 

【セミナー内容】

本日ご講演していただいた岡田昌彰氏は(近畿大学 理工学部 社会環境工学科 教授)、テクノスケープ(産業景観)がご専門であり、近代化によって生まれた工業景観についてご研究されている。セミナーでは、英国のテクノスケープについて、工場や運搬橋、鉄道、風車などの産業景観が人々に親しまれている事例が紹介された。

事例の紹介では、現役のものやコンバージョンされたもの、観光地となっているもの、雑貨などのデザインに取り込まれているものなど、人々の生活に産業景観が溶け込んでいる様子が伺えた。元ツイード製造工場(ブリス・ツイード・ミル)を活用した高級マンションは、郊外にあり立地利便性は低いものの人気が高く、即時完売であった。ディドコット発電所(石炭火力発電所、1968年竣工)は、二酸化炭素排出量がEUの基準に合わないため解体されたが、解体を惜しむ人が多く、なかにはタトゥーをいれる人もいる。他にも、軍事遺産で結婚式を挙げる光景や、バターシ―発電所が絵葉書やアクセサリーになっている。また、中には最初から廃墟としてつくられた人工廃墟(フォリー)もあるということである。工業風景が日常生活の溶け込んでおり、イギリスが産業風景に誇りを持っているということが推察される。

日本に縁のある事例も紹介していただいた。フォース鉄道橋(1890年竣工)はスコットランド紙幣にも描かれている、最も有名な橋のひとつであり現在も使用されている。台風対策のため台形フォルムで設計されており装飾は無い。紙幣には、当時建設に携わった日本人の渡邊嘉一氏が印刷されている。渡邊氏は帰国後に日本土木学会設立にも参画した人物である。

また、共用水道と日本の関係についての調査結果が大変興味深かった。共用水道は、住民が飲料水を求めると同時に井戸端会議も行われる場所である。共用水道は東インド会社寄付によってつくられており、511か所を現地調査した結果、70%が教会から300M以内に整備されていることが分かった。日本に初めて近代水道がつくられたのは横浜であり、現在2基しか残っていない。調査ではレプリカが80基残っていることが明らかになった。また、日本では、共用水栓のデザインが獅子から龍に変化し普及している点が特徴である(英国:獅子頭共用栓、日本:龍頭共用栓)。

イギリスの産業景観は日本の文化の中に何らかの形で表れており、日本の文化の一部を知ることにもなるのではないだろうか。

記録:大庭知子(九産大)