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子どもを支えるまちづくり 縮退社会における「まち」と「デザイン」の可能性 田北雅裕氏

2025年7月4日(金)、九州産業大学23号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。2025年 前期の景観セミナーでは、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマとしており、前期の最終回は、田北雅裕氏(九州大学 准教授)をお招きし、「子どもを支えるまちづくり 縮退社会における「まち」と「デザイン」の可能性」と題してご講演いただきました。  田北先生は、デザインは単なる造形や広告ではなく、「子ども・家族・地域を支える仕組みづくり」として捉え直し、福祉とまちづくりの橋渡しをされてきました。「まち」は「個人」・「家族」と「国」の間にある曖昧な中間領域として、人を孤立させず繋ぐ役割を持ち、その中で「ふさわしいデザイン」を生み出すことが社会を支えると、ご自身の様々な活動を例に交え、ご説明いただきました。  中でも印象的だったのは、デザインは物理的に空間を作るだけでなく、風景から「意味を見出すこと」もデザインの一部であることを語られた、田北先生が高校生時代に過ごした橋の下の例です。このような公共空間の例は、家族関係にも置き換えることができ、物理的には変えられない家族関係も、関係性や意味付けの変化によって関係改善に繋がることを語られ、強い印象として残りました。  今回のご講演によって、里親制度の再認識、デザインの持つ可能性について、改めて考える機会となりました。  景観研究センター 古野 
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『用と美の風景』と限界風景論    神山藍氏

2025年6月20日(金)、九州産業大学23号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。2025年 前期の景観セミナーでは、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマとしており、第二回目は、神山藍氏(東洋大学 准教授)をお招きし、「『用と美の風景』と限界風景論」と題してご講演いただきました。  神山先生は、鶴見俊輔の「限界芸術論」は「風景」にも当てはまるとご提案されており、特別な風景(純粋風景)に目を向けるだけでなく、生活に根ざした身近なもの(限界風景:用と美の境界)にも目を向けることで、新しい景観研究の可能性が広がることをご説明いただきました。  具体例として、「茶の湯」を挙げられていました。薬用として始まったお茶が、文化や芸術に発展しており、わびの精神が限界芸術的な価値を持つと紹介されました。また、「ローマの噴水」も具体例として挙げられており、芸術的な装飾で知られているが、本来は市民に飲料水を提供するために作られた生活基盤であり、芸術性と実用性の両立が人々に愛される理由であると紹介されました。その他、「土佐日記」、「大伴家持」なども例として挙げられました。  「限界芸術」、「限界風景」などは普段考えることのなかった概念だったため、最初は理解が難しかった中、具体例を交えたご説明を聞くうちに会場の参加者の理解も進みました。今回のご講演は、芸術や風景の見方について、改めて考えさせられる機会となりました。 景観研究センター 古野

自律的リノベーションとコミュニティの蘇生 吉浦隆紀氏

  2025 年 6 月 6 日(金)、九州産業大学 23 号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。今回は、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマに、福岡を拠点に空き家の再活用や地域再生に取り組む吉浦隆紀氏をお招きし、「自律的リノベーションとコミュニティの蘇生」を副題としてご講演いただきました。   吉浦氏は、福岡市郊外にて代々続く農家の 8 代目であり、建築や都市に関する知見を活かしながら、空き家を再生し住まいや地域の魅力を引き出す実践を展開されています。講演では、 NY 留学中に得た「まちに魅力があれば人は古くても住む」という気づきを原点に、帰国後に取り組んだ DIY 型賃貸マンションや学生とのリノベーションプロジェクト、そして自身が購入した空き家を活用した実践事例について紹介されました。   中でも印象的だったのは、 70 年前に建設された集合住宅を約 90 万円で購入し、「月 1 万円の家賃+材料費支給+技術指導付き」で入居者が自ら改修するスタイルを採用した事例です。 3 か月で満室となったこの物件の成功を皮切りに、宣伝を行わず口コミだけで満室となった別棟、そして半年で 1,000 人以上が訪れる空間となった事例など、空き家の新たな価値を実感させる話が多数紹介されました。   「人は便利になるほどコミュニティが失われるが、人と関わりたいという欲求はなくならない」「お金のやり取りがないと関係が曖昧になる。ボランティアでは続かない」など、運営上のリアルな課題と工夫についても率直に語られ、会場の参加者に強い印象を与えました。   今回のセミナーは、縮退社会において地域資源を活かし、人のつながりや暮らしの質をいかに再構築していくかを考える上で、示唆に富んだ機会となりました。 景観研究センター 大庭

共創の流域治水

  景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #3   テーマ:流域治水の文化   12 月6日(金) 18:00-19:30   景観セミナー後期の最終回では、島谷幸宏氏(熊本県立大学 地域共創拠点運営機構 機構長 特別教授)より「共創の流域治水」と題してご講演いただきました。 島谷先生は、国土交通省の治水論に対し、人の営みと一体となった流域全体の水のあり方を見直す視点の重要性を強調され、「ネイチャーベースのソリューション(自然の作用を利用した対策)」が不可欠であると述べられました。講演の核である「共創(CO-CREATION)」は、多様な主体が協力して新たな価値を生み出す運動論と定義され、産学官民に留まらない広範な概念が提唱されました。 具体的な実践として紹介されたのが、「くまもと雨庭パートナーシップ」です。これは、義務やノルマのない自発的な連携で、 2030 カ所の雨庭整備を目指すとのこと。熊本県や肥後銀行などが連携し、補助金や融資制度を通じて活動を支援する、多様な主体の共創が機能する好事例だと感じました。また、地域住民主体の「クマカメ」プロジェクトでは、安価なカメラと LINE を活用し、行政に頼らない「ボトムアップ型 IOT 」で避難行動を促している、というお話も大変興味深かったです。高校生の参加がキャリア意識向上に繋がった、という報告も印象的でした。 質疑応答では、活動拡大や信頼構築、プロジェクトにおける「美しさ」の追求など多角的な議論が展開されました。島谷先生は、社会関係資本の強化と地域の人々との地道な信頼関係づくりが、活動継続に最も重要だと強調され、「共創」を通じた持続可能な社会の実現を改めて示されました。 文責:大庭

雨をゆっくり流すまちづくり

雨をゆっくり流すまちづくり   笹川みちる氏(NPO法人雨水市民の会 理事) 11/ 8 (金)18:00-19:30  景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #2 本日は、笹川みちる氏(NPO法人雨水市民の会 理事)に「雨をゆっくり流すまちづくり」というテーマで、ご講演いただきました。 墨田区は、広い範囲で海抜ゼロメートル地帯のためかつては水害常襲地帯であり、現在もそのリスクは残されています。降雨時に下水が河川に流れ込むCSO(合流式下水道越流水)問題も抱えており、40年ほど前から、雨水を貯める・蓄える取り組みをすすめています。例えば区役所の1,000 ㎥  、両国国技館の1,000 ㎥   、スカイツリーの2,635㎥  をはじめ区内全域で801か所での総貯水量26,780 ㎥  を誇る雨水利用の先駆都市でもあります。 このような背景のなか、雨水市民の会では雨水貯留・活用に関して市民でできることを中心に取り組んでおり、雨水タンクの普及や、災害時のための路地尊の活用など、個人・コミュニティ規模の雨水貯留施設の普及・活用に尽力されてきたそうです。 そのほか、市民参加や参加型のワークショップを開催したり、市民と専門家の技術的な橋渡しにも一役買っています。現在は、米国コカ・コーラ財団からの助成もうけて、楽しく、魅力的かつ効果的に雨水貯留するプロジェクトに取り組まれています。 東京都では平成26年に、豪雨対策の目標降雨が75mm/hから85mm/hへと変更されましたが、これは増加分の10mm/hに流域での貯留や浸透対策で対応する必要があることを意味しています。まさに雨水市民の会で取り組んできた小規模雨水管理が着目される時代になってきたわけです。 最後に笹川さんの推進する未来の水ビジョンとして「水みんフラ」という提言をされました。私たちの暮らしを支える社会共通基盤システムを「みんなのインフラ」という意味で「みんフラ」と名付け、特に水をマネジメントする仕組み全体を「水みんフラ」と呼ぶそうです。この水インフラの概念はわかりやすいイラストにまとめられており、イラストを基に市民が自ら描く自らの未来への議論が弾んでいるようです。  文責:景観研究センター 伊豫岡

流域治水と雨庭

  景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #1 テーマ:流域治水の文化 10 月 18 日(金) 18:00-19:30 本日から、景観セミナーレクチャーシリーズの後期が始まりました。第1回目のレクチャーは、景観研究センターの代表である山下三平氏(九州産業大学 建築都市工学部 教授)が講演しました。 山下三平氏の講演「流域治水と雨庭」は、都市型水害という現代の課題に対し、雨庭という概念が提示する新たな方向性を示唆するものでした。教授は、都市化と集中豪雨が引き起こす水害の現状を提示し、これまでの治水対策が、総合治水や超過洪水対策を経て、現在では流域治水関連法に基づく多角的なアプローチへと変遷してきたことを詳述されました。   特に、流域治水が霞堤やため池、田んぼダムといった伝統的治水文化と共通の基盤を持つ点に、深く感銘を受けました。これこそが、自治や「小さき者」の営み、そして「自在の美」が息づく日本の風土と呼応するものではないか、と改めて考察する機会となりました。   雨庭は、都市に点在する小規模な空間でありながら、雨水処理機能を担い、地域の「まちニハ」としての役割も果たします。講演では、京都の相国寺裏方丈庭園が長きにわたり水害を防いできた事例を挙げ、その枯山水が実は高度な雨水管理機能を持つ「伝統的雨庭」であったという研究結果は、非常に興味深く、私たちに古の知恵を現代に活かす可能性を示唆してくださいました。   また、九州産業大学キャンパス内に設置された雨庭「 CELL 」での実践は、植栽による浸透機能の向上や、手入れがもたらす喜びといった、「都市生活のリアリティ」を引き出す体験の重要性を物語っていると感じました。これは、単に治水という機能を超え、人々の生活の質を高めるグリーンインフラとしての雨庭の価値を再認識させてくれるものでした。山下先生、誠にありがとうございました。   文責:大庭

海岸風景の継承:生態系保全とコミュニティの形成

 7 /5 (金) 18 : 00-19 : 30  景観セミナー/レクチャーシリーズ 2024 ,前期,生物/文化の多様性と景観 第2回 北海道大学大学院農学研究院 講師 松島 肇 氏 松島氏は、緑地計画、景観生態学を専門とし、グリーンインフラの社会実装を通じて、生物多様性の保全・復元と気候変動適応策について研究されています。講演では、北海道の海岸を例に「自然海岸」についてご説明いただきました。   私たちがイメージする白砂青松の海岸は、実は江戸時代以降に人工的に作られた景観ですが、北海道では松が育たないため、白砂青松の景観は見られません。そのかわりに、北海道の海岸の約 6 割が自然海岸として残っているとのことです。また、背後地も自然状態の場合が多い点が全国的傾向と異なります。草原が広がる石狩海岸の写真は特に印象的でした。   講演では、エコトーン( ecotone )という概念についてもお話がありました。エコトーンとは、異なる生態系(生態系ユニット)が連続的に推移する移行帯を指し、環境変動に対して隣接するユニットが相補的に機能する場所です。今回は自然海岸を例に、自然の浄化作用や動植物の活動によって維持されてきた環境が、近年は人間活動によりそのバランスが崩れていることが説明されました。   また、低年齢からの意識づけとして、小学校の行事を通じて自然海岸の風景を維持する活動が紹介されました。しかし、温暖化防止に比べて生物多様性対策への意識は低いのが現状とのことです。小学生の教育を通じて、社会の行動変容につながることを期待したいと考えさせられました。 文責:景観研究センター 大庭