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海岸風景の継承:生態系保全とコミュニティの形成

 7 /5 (金) 18 : 00-19 : 30  景観セミナー/レクチャーシリーズ 2024 ,前期,生物/文化の多様性と景観 第2回 北海道大学大学院農学研究院 講師 松島 肇 氏 松島氏は、緑地計画、景観生態学を専門とし、グリーンインフラの社会実装を通じて、生物多様性の保全・復元と気候変動適応策について研究されています。講演では、北海道の海岸を例に「自然海岸」についてご説明いただきました。   私たちがイメージする白砂青松の海岸は、実は江戸時代以降に人工的に作られた景観ですが、北海道では松が育たないため、白砂青松の景観は見られません。そのかわりに、北海道の海岸の約 6 割が自然海岸として残っているとのことです。また、背後地も自然状態の場合が多い点が全国的傾向と異なります。草原が広がる石狩海岸の写真は特に印象的でした。   講演では、エコトーン( ecotone )という概念についてもお話がありました。エコトーンとは、異なる生態系(生態系ユニット)が連続的に推移する移行帯を指し、環境変動に対して隣接するユニットが相補的に機能する場所です。今回は自然海岸を例に、自然の浄化作用や動植物の活動によって維持されてきた環境が、近年は人間活動によりそのバランスが崩れていることが説明されました。   また、低年齢からの意識づけとして、小学校の行事を通じて自然海岸の風景を維持する活動が紹介されました。しかし、温暖化防止に比べて生物多様性対策への意識は低いのが現状とのことです。小学生の教育を通じて、社会の行動変容につながることを期待したいと考えさせられました。 文責:景観研究センター 大庭
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野の草花と文化的景観

  6/7 (金) 18 : 00-19 : 30  景観セミナー/レクチャーシリーズ 2024 ,前期,生物/文化の多様性と景観 第1回 本日は、内田泰三氏(九州産業大学 建築都市工学部 教授)に『野の草花と文化的景観』というテーマで、熊本県阿蘇での取り組みについてご講演いただきました。   日本最大規模を誇る阿蘇の草原は、ススキやネザサが主体の半自然草地であり、その美しい景観は馬の放牧や採草、野焼きなどの生業に支えられ成り立っています。採草によって他種が侵入する機会が創出されることは、生物多様性に影響し、人間の風習や文化にも深くかかわっています。「地域の一生態系が支えられている」というお言葉が特に印象的でした。   外国産外来種の問題についてもお話がありました。近年の調査で、道路法面に外国産外来種のヨモギやススキ、コマツナギが植えられていることが判明したとのことです。地域が異なれば遺伝子が異なる可能性が高く、遺伝子かく乱を引き起こす可能性があることが指摘されました。さらに、昨今の法面は外来型の牧草が使われているため、鹿の給餌場となり、結果的に道路法面の崩壊を招き、人間に命の危険を及ぼす可能性があることも話され、これが大きな課題であると感じました。   講演の後半では、有志によって草原で国産在来種であるススキなどの種子を採取し、その種子で緑化することを目的に活動していることも報告されました。緑化活動も重要ですが、地域住民の理解と協力を得ることに時間をかけているという点が印象的でした。今後は、地域と企業が連携する産業によって地域性種苗による緑化が成立することが望ましいとのことですが、その規模については会場でも議論が交わされました。   今回の講演会を通じて、野の草花とそれに関連する文化的景観の重要性を再認識することができました。自然と共生する暮らしの魅力と、それを次世代に伝えていくための努力が求められていると感じました。 景観研究センター 大庭

地域産業振興に資する景観づくり ―長崎市景観専門監の取り組み―

12/15 (金) 18 : 00-19 : 30 景観セミナー/レクチャーシリーズ 2023 ,後期,第 3 回「地域産業振興に資する景観づくり ―長崎市景観専門監の取り組み―」,講師:高尾 忠志 さん 本日は、長崎市景観専門監である高尾忠志さんにご講演いただきました。高尾さんの講演からは、地方の元気を取り戻すために、地域のまちづくりに積極的に取り組む必要性が明確に伝えられました。特に、今や観光だけでなく、定住にも影響を及ぼす時代になっていることに気付かされました。 長崎市が施設更新の時期にあったことが、市の計画に反映しやすかった点は注目に値します。他方、企業誘致だけでは経済効果が期待できないとの指摘は重要で、スモールビジネスの育成や地域経済循環のアプローチが不可欠であることが示されました。このようなアプローチが、現代の高次欲求やエシカルな欲求を満たす社会に適した方法であるのではないかということでした。 個人的に印象に残った事例は、出島夜市の事例です。この事例は、長崎ならではの景観を生み出す市民団体の協力によって成り立っており、地域の特性を活かした成功事例であると言えます。このようなスポットが増えれば、地域内での交流が促進され、交流の産業化に寄与する可能性が高まります。地域産業振興に資する景観づくりは、地域の魅力を最大限に活用し、地域全体の成長に不可欠な要素となるということを考えさせられました。 景観研究センター 大庭  

福岡の成長とまちづくりの課題

  12/1(金)18:00-19:30 景観セミナー/レクチャーシリーズ2023,後期,第2回「福岡の成長とまちづくりの課題 」,講師:坂井猛さん 九州大学教授の坂井猛氏にご講演いただきました。セミナーでは、まず景観を議論する前に、重要な前提があることが強調されました。それは、 SDGs (持続可能な開発目標)に景観や風景美しさが明示的に含まれていないことから、景観は豊かな国の問題であるという事実です。また、アジア圏諸国でも景観への意識が高まっていることが触れられ、国際的な視野からのまちづくりの重要性が認識されました。   特に、天神ビッグバンの提案については、個々の建物が着実に進行しているものの、全体像を俯瞰してどのように見えるかの確認が必要であるとの指摘がありました。高さ制限の緩和が予想以上にまちづくりに影響を及ぼす可能性が議論され、慎重な取り組みが必要であることが示されました。   また、九州大学の伊都キャンパスへの移転に際しては、地元の箱崎への影響を調査し、歴史的価値のある建物や庭園を保護する取り組みが進行中であることが伝えられました。移転後、近隣の飲食店等についての心配があったものの、営業を続ける場所と新たに生まれる場所があることが報告され、地域への配慮が示されました。 また、セミナーを通じて、大きなプロジェクトが将来的に次々と更新時期を迎えることは課題として明らかになりました。これらの取り組みにおいては、個々の建物やプランだけでなく、総合的な視点を持ち、まち全体の発展と景観の保全を考える必要があることが強調されました。今後のまちづくりに向けての示唆に富んだセミナーであったと感じました。 景観研究センター 大庭

作家の仕事と職人の仕事― 陶芸産地における場の風景の継承から―

 11/10(金)18:00-19:30 景観セミナー/レクチャーシリーズ2023,後期,第1回「作家の仕事と職人の仕事-陶芸産地における場の風景の継承から― 」,講師:濱田琢司さん 本日は、文化地理学者の濱田琢司さん(関西学院大学 文学部 教授)にご講演いただきました。学生時代から 民藝運動 に取り組まれてきた濱田さんは、 民藝運動 の創始者の 1 人である濱田庄司氏のお孫さんです。陶芸産地と民芸の関係をご研究されてきた濱田さんのお話は大変興味深く、幼少時代に御祖父様と暮らしたご実家の様子が分かる貴重な写真も公開していただきました。 そして、陶芸家 濱田庄司氏のルーツ(川崎市のご出身であり作陶のために益子に移住)の説明からは、実は、トラディショナルな風景や景観は、必ずしも産地代表者ではない者が作りだしたもので、それが伝統としてとらえられていたりする、というお言葉からも、新しさと伝統の関係性について考えさせられました。   今回、話の中心となったのは、「アーティストとアーティザン」であり、ジェイムズ・クリフォード氏が示す芸術文化システムを元に丁寧にご説明いただきました。 小鹿田と小石原の陶芸産地を例に説明していただいた、アーティストとアーティザン(商業的 / 作家的)の関わり合いについて、両者のもつれあいは、おもしろさであり重要であると考える、とおっしゃっていたのが印象的でした。様々な分野で議論される「アーティストとアーティザン」について、改めて考える機会となりました。 濱田先生、本日は、大変お忙しいスケジュールの中、当センター(九州産業大学)にお越しいただきありがとうございました!                            景観研究センター 大庭知子

近現代の社会・人間とランドスケープ〜「景観」という価値の出自とこれからをかんがえる〜

  7 / 21 (金) 18 : 00-19 : 30 景観セミナー/レクチャーシリーズ 2023 ,第 3 回「近現代の社会・人間とランドスケープ〜「景観」という価値の出自とこれからをかんがえる〜 」,講師:中井祐さん まずヴィスタ - アイストップ ( 西 ) とヤマアテ ( 東 ) の異同からお話しが始まりました。その後、近代的な自我と美しい景観の成立へ進められた考究は、伝統共同体の解体と逆対応の、強い公共とバラバラな個人の相互依存へと展開されました。そのうえでこれからはバラバラな個人がいかに新たな関係性をつくるかという、いわばデモクラシーの更新ということに、うつくしい景観の生成の方向性があると説いてくださいました。まことに見事な論理展開と問題提起です。 いっぽう、その方向性の道筋は、何に基づいていくのでしょうか。自然でしょうか。新しい都市の形 ( フレーム ) でしょうか。中井先生は「愛」、とおっしゃいました!

景観と意識をつなぐアート ーパブリックアートの射程ー

 2023年7月7日(金) 18:00-19:30  景観セミナー/レクチャーシリーズ2023,第2回「景観と意識をつなぐアート ーパブリックアートの射程ー」,講師:知足美加子さん 感動的でした。自然、文化、歴史、芸術に広がる世界を貫く思想。知足先生は、ペストに続くルネッサンスからコロナの後の今に、 Bio-Art を構想していらっしゃいます。 アーティストとしての知足先生がつくられた、あの膨よかな彫刻には、愛と尊敬が溢れています。そうして景観は永続することになるのでしょう。