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「景観セミナー/レクチャーシリーズ2025(後期)」開催について

景観研究センターにて、「景観セミナー/レクチャーシリーズ2025(後期)」を開催します。  今回の総合テーマは「島嶼の持続と風景」です。    気候の変動と人口の減少が顕著になり、私たちの自然的ならびに社会的な環境が大きく変化しています。いまやこの変化への迅速で適切な応答が不可避です。温暖化による自然資源の減少と、高齢化と後継者不足による生業持続の困難は現在、我が国の多くの地域の共通課題です。こうした傾向は特に、離島において際立っています。    地球温暖化への対策の一つとして、循環型・再生可能エネルギーの開発と普及が不可欠です。これは地域の活性化方策として期待されてもいます。地域の活性化にはまた、観光産業への期待も大きくなっています。前者は大規模な施設導入が二酸化炭素排出量削減に大きく貢献し、かつ新たな産業基盤になりえます。しかしその一方で、開発そのものの規模の大きさが風景を変え、環境への負荷をかえって増加させる可能性があります。従来の地域固有の産業の衰退を促進する可能性もあります。また後者については、訪問者が多くかつ長く滞在すれば、それだけ地域経済に貢献できるでしょう。しかしそれには、地域の日常の生活と環境を損なうリスクが伴います。    今回のレクチャーシリーズは、「島嶼の持続と風景」をテーマにします。豊かな自然と古い文化に恵まれた地域の変化と持続のありかたに迫ります。そのために、九州ならびに韓国で島嶼地域のまちづくりの実践と専門的な研究に携わる方々にお話しをいただき、じっくりと議論をしたいと思います。現代の世界が抱える環境と社会の課題解決の糸口をともにつかむことができれば幸いです みなさま是非ともご参加ください。  以下、詳細です。 ■日時 ①10月24日(金) 18時00分-19時30分   離島における持続可能な交通空白解消対策を考える   幕 亮二氏(株式会社MK総合研究所 代表取締役) ②11月14日(金) 18時00分-19時30分   弱さからはじまる風景ー離島に見る、持続可能な緩やかさ  芳澤 瞳氏(五島列島福江島 ヒトミシリ相談所 代表) ③12月19日(金) 18時00分-19時30分   韓国社会の変化と環境課題に対応する島嶼住民と島嶼政策の現状  ...
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子どもを支えるまちづくり 縮退社会における「まち」と「デザイン」の可能性 田北雅裕氏

2025年7月4日(金)、九州産業大学23号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。2025年 前期の景観セミナーでは、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマとしており、前期の最終回は、田北雅裕氏(九州大学 准教授)をお招きし、「子どもを支えるまちづくり 縮退社会における「まち」と「デザイン」の可能性」と題してご講演いただきました。  田北先生は、デザインは単なる造形や広告ではなく、「子ども・家族・地域を支える仕組みづくり」として捉え直し、福祉とまちづくりの橋渡しをされてきました。「まち」は「個人」・「家族」と「国」の間にある曖昧な中間領域として、人を孤立させず繋ぐ役割を持ち、その中で「ふさわしいデザイン」を生み出すことが社会を支えると、ご自身の様々な活動を例に交え、ご説明いただきました。  中でも印象的だったのは、デザインは物理的に空間を作るだけでなく、風景から「意味を見出すこと」もデザインの一部であることを語られた、田北先生が高校生時代に過ごした橋の下の例です。このような公共空間の例は、家族関係にも置き換えることができ、物理的には変えられない家族関係も、関係性や意味付けの変化によって関係改善に繋がることを語られ、強い印象として残りました。  今回のご講演によって、里親制度の再認識、デザインの持つ可能性について、改めて考える機会となりました。  景観研究センター 古野 

『用と美の風景』と限界風景論    神山藍氏

2025年6月20日(金)、九州産業大学23号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。2025年 前期の景観セミナーでは、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマとしており、第二回目は、神山藍氏(東洋大学 准教授)をお招きし、「『用と美の風景』と限界風景論」と題してご講演いただきました。  神山先生は、鶴見俊輔の「限界芸術論」は「風景」にも当てはまるとご提案されており、特別な風景(純粋風景)に目を向けるだけでなく、生活に根ざした身近なもの(限界風景:用と美の境界)にも目を向けることで、新しい景観研究の可能性が広がることをご説明いただきました。  具体例として、「茶の湯」を挙げられていました。薬用として始まったお茶が、文化や芸術に発展しており、わびの精神が限界芸術的な価値を持つと紹介されました。また、「ローマの噴水」も具体例として挙げられており、芸術的な装飾で知られているが、本来は市民に飲料水を提供するために作られた生活基盤であり、芸術性と実用性の両立が人々に愛される理由であると紹介されました。その他、「土佐日記」、「大伴家持」なども例として挙げられました。  「限界芸術」、「限界風景」などは普段考えることのなかった概念だったため、最初は理解が難しかった中、具体例を交えたご説明を聞くうちに会場の参加者の理解も進みました。今回のご講演は、芸術や風景の見方について、改めて考えさせられる機会となりました。 景観研究センター 古野

自律的リノベーションとコミュニティの蘇生 吉浦隆紀氏

  2025 年 6 月 6 日(金)、九州産業大学 23 号館にて、景観研究センター主催による「景観セミナー」が開催されました。今回は、「縮退社会における空間と価値の再創造」を総合テーマに、福岡を拠点に空き家の再活用や地域再生に取り組む吉浦隆紀氏をお招きし、「自律的リノベーションとコミュニティの蘇生」を副題としてご講演いただきました。   吉浦氏は、福岡市郊外にて代々続く農家の 8 代目であり、建築や都市に関する知見を活かしながら、空き家を再生し住まいや地域の魅力を引き出す実践を展開されています。講演では、 NY 留学中に得た「まちに魅力があれば人は古くても住む」という気づきを原点に、帰国後に取り組んだ DIY 型賃貸マンションや学生とのリノベーションプロジェクト、そして自身が購入した空き家を活用した実践事例について紹介されました。   中でも印象的だったのは、 70 年前に建設された集合住宅を約 90 万円で購入し、「月 1 万円の家賃+材料費支給+技術指導付き」で入居者が自ら改修するスタイルを採用した事例です。 3 か月で満室となったこの物件の成功を皮切りに、宣伝を行わず口コミだけで満室となった別棟、そして半年で 1,000 人以上が訪れる空間となった事例など、空き家の新たな価値を実感させる話が多数紹介されました。   「人は便利になるほどコミュニティが失われるが、人と関わりたいという欲求はなくならない」「お金のやり取りがないと関係が曖昧になる。ボランティアでは続かない」など、運営上のリアルな課題と工夫についても率直に語られ、会場の参加者に強い印象を与えました。   今回のセミナーは、縮退社会において地域資源を活かし、人のつながりや暮らしの質をいかに再構築していくかを考える上で、示唆に富んだ機会となりました。 景観研究センター 大庭

共創の流域治水

  景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #3   テーマ:流域治水の文化   12 月6日(金) 18:00-19:30   景観セミナー後期の最終回では、島谷幸宏氏(熊本県立大学 地域共創拠点運営機構 機構長 特別教授)より「共創の流域治水」と題してご講演いただきました。 島谷先生は、国土交通省の治水論に対し、人の営みと一体となった流域全体の水のあり方を見直す視点の重要性を強調され、「ネイチャーベースのソリューション(自然の作用を利用した対策)」が不可欠であると述べられました。講演の核である「共創(CO-CREATION)」は、多様な主体が協力して新たな価値を生み出す運動論と定義され、産学官民に留まらない広範な概念が提唱されました。 具体的な実践として紹介されたのが、「くまもと雨庭パートナーシップ」です。これは、義務やノルマのない自発的な連携で、 2030 カ所の雨庭整備を目指すとのこと。熊本県や肥後銀行などが連携し、補助金や融資制度を通じて活動を支援する、多様な主体の共創が機能する好事例だと感じました。また、地域住民主体の「クマカメ」プロジェクトでは、安価なカメラと LINE を活用し、行政に頼らない「ボトムアップ型 IOT 」で避難行動を促している、というお話も大変興味深かったです。高校生の参加がキャリア意識向上に繋がった、という報告も印象的でした。 質疑応答では、活動拡大や信頼構築、プロジェクトにおける「美しさ」の追求など多角的な議論が展開されました。島谷先生は、社会関係資本の強化と地域の人々との地道な信頼関係づくりが、活動継続に最も重要だと強調され、「共創」を通じた持続可能な社会の実現を改めて示されました。 文責:大庭

雨をゆっくり流すまちづくり

雨をゆっくり流すまちづくり   笹川みちる氏(NPO法人雨水市民の会 理事) 11/ 8 (金)18:00-19:30  景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #2 本日は、笹川みちる氏(NPO法人雨水市民の会 理事)に「雨をゆっくり流すまちづくり」というテーマで、ご講演いただきました。 墨田区は、広い範囲で海抜ゼロメートル地帯のためかつては水害常襲地帯であり、現在もそのリスクは残されています。降雨時に下水が河川に流れ込むCSO(合流式下水道越流水)問題も抱えており、40年ほど前から、雨水を貯める・蓄える取り組みをすすめています。例えば区役所の1,000 ㎥  、両国国技館の1,000 ㎥   、スカイツリーの2,635㎥  をはじめ区内全域で801か所での総貯水量26,780 ㎥  を誇る雨水利用の先駆都市でもあります。 このような背景のなか、雨水市民の会では雨水貯留・活用に関して市民でできることを中心に取り組んでおり、雨水タンクの普及や、災害時のための路地尊の活用など、個人・コミュニティ規模の雨水貯留施設の普及・活用に尽力されてきたそうです。 そのほか、市民参加や参加型のワークショップを開催したり、市民と専門家の技術的な橋渡しにも一役買っています。現在は、米国コカ・コーラ財団からの助成もうけて、楽しく、魅力的かつ効果的に雨水貯留するプロジェクトに取り組まれています。 東京都では平成26年に、豪雨対策の目標降雨が75mm/hから85mm/hへと変更されましたが、これは増加分の10mm/hに流域での貯留や浸透対策で対応する必要があることを意味しています。まさに雨水市民の会で取り組んできた小規模雨水管理が着目される時代になってきたわけです。 最後に笹川さんの推進する未来の水ビジョンとして「水みんフラ」という提言をされました。私たちの暮らしを支える社会共通基盤システムを「みんなのインフラ」という意味で「みんフラ」と名付け、特に水をマネジメントする仕組み全体を「水みんフラ」と呼ぶそうです。この水インフラの概念はわかりやすいイラストにまとめられており、イラストを基に市民が自ら描く自らの未来への議論が弾んでいるようです。  文責:景観研究センター 伊豫岡

流域治水と雨庭

  景観セミナー / レクチャーシリーズ 2024 後期 #1 テーマ:流域治水の文化 10 月 18 日(金) 18:00-19:30 本日から、景観セミナーレクチャーシリーズの後期が始まりました。第1回目のレクチャーは、景観研究センターの代表である山下三平氏(九州産業大学 建築都市工学部 教授)が講演しました。 山下三平氏の講演「流域治水と雨庭」は、都市型水害という現代の課題に対し、雨庭という概念が提示する新たな方向性を示唆するものでした。教授は、都市化と集中豪雨が引き起こす水害の現状を提示し、これまでの治水対策が、総合治水や超過洪水対策を経て、現在では流域治水関連法に基づく多角的なアプローチへと変遷してきたことを詳述されました。   特に、流域治水が霞堤やため池、田んぼダムといった伝統的治水文化と共通の基盤を持つ点に、深く感銘を受けました。これこそが、自治や「小さき者」の営み、そして「自在の美」が息づく日本の風土と呼応するものではないか、と改めて考察する機会となりました。   雨庭は、都市に点在する小規模な空間でありながら、雨水処理機能を担い、地域の「まちニハ」としての役割も果たします。講演では、京都の相国寺裏方丈庭園が長きにわたり水害を防いできた事例を挙げ、その枯山水が実は高度な雨水管理機能を持つ「伝統的雨庭」であったという研究結果は、非常に興味深く、私たちに古の知恵を現代に活かす可能性を示唆してくださいました。   また、九州産業大学キャンパス内に設置された雨庭「 CELL 」での実践は、植栽による浸透機能の向上や、手入れがもたらす喜びといった、「都市生活のリアリティ」を引き出す体験の重要性を物語っていると感じました。これは、単に治水という機能を超え、人々の生活の質を高めるグリーンインフラとしての雨庭の価値を再認識させてくれるものでした。山下先生、誠にありがとうございました。   文責:大庭